“Japan as No.1″と言われた時代

社会関連
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もしかすると、若い世代の方には「信じられない」という方がいるかもしれませんが、かつて(今から思えば40年以上も前)日本が”Japan as No.1″と言われた時代がありました。

1989年世界時価総額ランキングと著書”Japan as Number One”

参考までに日本のバブル経済崩壊前、1989年の世界時価総額ランキングを見てみましょう。
なんと日本の企業がトップ10に7つもランクインしています。

引用元:トップ10に7社→最高で39位…日本経済「失われた30年」は時価総額の世界ランキングでもはっきり:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

日本企業の目を見張る快進撃が既に始まっていた1979年には、ハーバード大学社会科学教授であったEzra F. Vogel(1930-2020)により、”Japan as Number One“というタイトルの著書が発表され、同年この本は日本語にも訳されて日米両国でベストセラーとなりました。

この本の序文にある通り、Vogelは当時の日本の大躍進を社会科学的に分析し、米国人に当時の米国が直面していた脱工業化社会における諸問題解決のためのヒントを伝えるためにこの本を出版しました。その趣旨は副題となっている”Lessons for America”にも表われています。

それから45年もの時が経過しました。古き良き時代をただ懐かしむために昔を振り返るということではなく、「今度は現代日本人がこのVogelが見出した知見から改めて学ぶべき事はないか」という思いで自分はこの著書を手にしてみました。

この著作において分析対象となっているのは、当時の日本企業だけではなく、政府、官僚機構、教育、福祉、防犯等、幅広い分野にわたっており、日本社会についての様々な研究結果がまとめられています。それらが当たり前だと思っている日本人にとっては非常に興味深いことが色々と書いてありますので、興味のある方は是非全文を読んでみて下さい。

ここでは以下、自分が最も面白いと感じた点について触れたいと思います。

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世界で一目置かれた「日本的経営」は日本の伝統的経営手法ではない?!

当時の日本成功の要因としてよく取り上げられる「日本的経営」についてですが、Vogelの分析によればこの「日本的経営」という経営方式は、過去の日本にあった伝統的な経営システムではないということです。

一度ここで、いわゆる「日本的経営」の特徴を簡潔に記載しておきます。

James Abegglen(1926-2007)というアメリカの経営学者が最初に取り上げた以下の3点が「日本的経営」の特徴を端的に表す表現としてよく使われています。

  1. 終身雇用
  2. 年功序列
  3. 企業別組合

例えばこの内の「終身雇用」についてですが、Vogelの主張を支持する根拠となる事実の一つは、多くの日本企業がこれを採用したのは1920年代以降のことだということです、それ以前の日本では、「終身雇用」は一般的な雇用形態ではありませんでした。当時の技術職である「熟練工(職人)」等は、転職を繰り返すのは普通で労働市場はかなり流動的でした。

また、「終身雇用」は日本独自の雇用慣行ではなく、かつては米国の大企業においても多く採用されており、その代表に挙げられるIBMは1911年の創立から「家族型経営」を行う企業として知られ、1950年頃には「終身雇用制」を確立していて、創立以来1980年代までは「終身雇用」を維持していました。

このようにいわゆる「日本的経営」は、日本の伝統的システムや古来からの日本独特の国民性だけから生まれたものではないことが分かります。

Vogelは本作品中で、「終身雇用」だけでなく「年功序列」に関しても日本企業に古来からある制度ではないことを示しています。

「日本的経営」はどのように生まれたのか?

では「日本的経営」はどのように生まれたのでしょうか?

日本は戦後しばらくの間、政府指導の下で近代化を促進するために小企業の合併等様々な施策を行いました。その中には米国式経営法をモデルにする動きもありました。

しかしながら1960年代後半、日本の企業が欧米の企業を徐々にしのぐようになると、日本の経営者は「年功序列制」の方が西洋式経営法よりも優れていることを認識するようになり、以後は日本独自の経営哲学確立を目指すようになったのです。そこにはメインバンク制に支えられた長期的利益の重視も含まれています。

つまり、当時の日本企業の経営者は、大規模な近代工業が主役となっていく戦後成長期に最も有効となる経営システムを、日本古来からある日本の特徴、価値観を生かしつつも、西洋に既にあったシステムもうまく導入して、過去にない全く新しい「日本流ハイブリッド経営システム」を新たに作り上げたということなのです。

この既にあるものを、全く新しいより良いものに作り変える力」こそ、日本人がこれまで伝統的に培ってきた「日本の力」なのではないでしょうか。

ただ単に西洋のシステムやプロダクトをコピーするのではなく、それらに新たな要素を加え、その時点においてムダが少なく最もうまく働くシステムやプロダクトへとこれらを昇華させる力、これこそが「日本の世界に誇れる競争力の源泉」でしょう。

そう考えると、今現在我々はそういうことにきちんと取り組めているのか、改めて考えてみる必要があるのかもしれません。そういう力は今も尚我々に脈々と受け継がれているのですから

高度成長時代の終焉とその後の日本モデルの有効性

Vogelはこの本の最後の章で「日本の成功モデルはその後も有効であり続けるのか?」という問題について触れています。

「日本のモデルは高度成長期にふさわしいモデルであるため、今後低成長の時代に入るにつれ機能しなくなる」という悲観論者の考えを載せています。
この点については一定の理解を示しつつも、日本は次の10年もまだ機能して行けるものとVogelは予測しており、実際にそうなりました。

しかしこの本の出版から12年が経過し、日本経済は巨大なバブルを生み、それが崩壊した後は「失われた30年」と言われる時期を過ごすこととなってしまいました。

今改めて、高度経済成長期ではない現時点の状況に最も適合する新たな独自システムの構築が求められています。

ここに挙げさせて頂いたような過去の知見も踏まえ、様々な角度からの新たな取り組み(試行錯誤)が検討され、次の安定した社会が早く訪れることを願うばかりです。

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