今年の夏もまたものすごい日差しになるのか?最近日本の夏の暑さが厳しくなっていると感じる方が多いかもしれません。そこで関連があると思われるニュースをご紹介します。
その前にあらかじめお断りをさせていただきます。本記事は夏の日差しや暑さに関するある結論を主張することを目的としたものではございません。その点をご理解いただいた上でご一読いただければ幸いです。
太陽活動のサイクルはおよそ11年
それでは本記事の本題に戻ります。昨年の2024年10月15日に行われた記者団との電話会議にて、NASA(アメリカ航空宇宙局)、NOAA(アメリカ海洋大気庁)および国際太陽周期予測パネルからの代表者たちは、太陽活動が極大期に達したと発表しました1)。
太陽は低磁気と高磁気の活動の間の遷移を繰り返しており、太陽活動にはサイクルがあることが知られています。その周期はおよそ11年。この周期で太陽の磁極は反転し、穏やかな状態と活発な状態を繰り返しているそうです。
NASAとNOAAは現在も太陽の黒点(Sunspot)を追跡し、太陽活動サイクルの予測を行っています。
太陽の表面上に観測される黒点とは、磁力線が集中することによって生じる、より温度が低いところが可視化されたもの。この強烈なそして複雑な磁場のある場所こそが、太陽活動が活発な領域であり、太陽の爆発の源となる領域であるとのことです。
NASA本部に勤務する関係者は「太陽活動の極大期には、黒点の数は増加し、それ故太陽活動量が大きくなる」と述べています。
そして1600年代にガリレオが初めて黒点を観測して以来、天文学者は太陽の黒点数を観測し続けています。そして黒点数の推移は以下のグラフのようにばらつきがありながらも周期的な変化を示しているのです。
画像引用元:https://science.nasa.gov/science-research/heliophysics/nasa-noaa-sun-reaches-maximum-phase-in-11-year-solar-cycle/
続いて先日2025年6月6日、MSFC(マーシャル宇宙飛行センター)が太陽黒点数観測結果の更新データを公開しました2)。
画像引用元:https://www.nasa.gov/solar-cycle-progression-and-forecast/
注)上のグラフにある”○○ percentile”とは、データを小さい順に並べた時、データを小さい方から数えて○○%にある値のことを指します。例えば”50% percentile”はデータを最も小さい方から数えて全体の50%になるときの値のこと、”95% percentile”は同様に下から数えて全体の95%になるときの値のことです。厳密にはデータが飛び飛びの値を取るため、percentileの値は統計学の式に基づいて算出されます。詳細を知りたい方は、統計学を参照願います。
これに併せて、太陽からの電磁波強度(Solar Radio Flux (10.7cm))についても以下のようなデータが示されています。
画像引用元:https://www.nasa.gov/solar-cycle-progression-and-forecast/
ここで示されているSolar Radio Flux (10.7cm)(F10.7とも表記される)とは、波長10.7cm (2.8GHz)の太陽からの電磁波強度を太陽フラックスユニット(1太陽フラックス ユニット=10-22 W m-2 Hz-1)という単位で表したもの。太陽からの紫外線(UV)は地表に到達するまでに多く散乱され、地表からは正しく観測できないため、それと強度変化が関連していることが知られているこのF10.7が指数として用いられることがあります3), 4)。
このように黒点数の変化は、地球に降り注ぐ太陽からの電磁波の変化と相関があることが分かっています。
ただし、これに関しては注意が必要。
特定の波長領域、例えば紫外線の波長領域の電磁波に着目すると、その変動は10~100%5)になることが知られていますが、地球が太陽から受け取る光のエネルギーを全ての波長域で足し合わせた総量(太陽総放射量/Total Solar Irradiance: TSI)は、0.1%程度の変動5)でほぼ一定であるからです。
さらに、とくに地球の気温への影響に関していうと、地球の気温は太陽活動以外にも様々な要因によって影響を受けています。
例えば、大規模な火山の噴火、温室効果ガスや大気汚染物質の増加6)、温度上昇によって生じる雲による太陽光線の遮断の影響7)、森林の減少、自然界に存在する気候の揺らぎ6)、等々。その他都市部に関しては、人口建築物による被覆率増加、人口集中による排熱増加などが原因となるヒートアイランド現象8)も指摘されています。
これらは専門家の間でもなお議論9)が続けられています。
地球に降り注ぐ紫外線も変動
以上のことから、太陽活動は約11年のサイクルで変動をしており、少なくとも我々が日々の暮らしの中でよく問題とする紫外線の量に注目すると、太陽から地球に降り注ぐ紫外線量は現在極大期にあるといえそうです。
ただし、これも地表にいる我々に届く紫外線量とは別物。紫外線(UV)は波長(10~400nm。1nm(ナノメートル)は、1m(メートル)の10億分の1)が短いため、大気を通過する過程でかなり散乱されています。
雲の状態、大気中のエアロゾル物質、オゾン層などの状況により、地表に届くUV量はかなり影響を受けている10)のです。
ですから、太陽活動以外の要因がほぼ変わらないという前提が成立するならば、太陽からの日差しの量は今年の夏も強いものになるのかもしれません。
個人的に興味があるのは、これまで観測されたサイクルから考えると、2030年頃には太陽活動が穏やかになる可能性が高いということ。
こちらも同様に他の要因がそれほど変わらなければ、5年後はすこし穏やかな日差しの夏を迎えることになるのでしょうか。
5年後の夏、そのとき日本ではどんな夏を迎えているのでしょう。
昨今の世界の状況を見ていると、ただひたすら素朴で穏やかな夏を迎えたい、そんな気がしてなりません。
うちわを扇ぎながら、そういえばこんなデータがあったな、と静かに思い出す日が来ることを願うばかりです…。
出典及び参考資料
1) NASA, NOAA: Sun Reaches Maximum Phase in 11-Year Solar Cycle – NASA Science
2) Solar Cycle Progression and Forecast – NASA
3) solar activity index – 九州大学 (http://dyna.geo.kyushu-u.ac.jp/~yoshida/japanese/science-memos/sun/activity-index.html)
4) 東京大学理学系研究科 多田隆治, 気候変動と太陽活動 (https://www.cps-jp.org/~mosir/pub/2010/2010-02-22/03_tada/lecture01/pub-web/tada-1.pdf)
5) 京都大学 浅井、上野, 過去の太陽活動, 2021年公開資料 太陽地球圏環境予測 (file:///C:/Users/yoshi/Desktop/%E4%BD%9C%E6%A5%AD%E4%B8%AD/Blog/Solar%20cycle/4-3-1.pdf)
6) 温暖化の科学 Q12 太陽黒点数の変化が温暖化の原因?|ココが知りたい地球温暖化 | 地球環境研究センター
7) 気象研究所 野田, 地球温暖化予測に及ぼす雲の影響, 1991 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jie1922/70/3/70_3_219/_pdf/-char/ja)
8) ヒートアイランド現象 | 気象庁
9) ダイナミックな太陽活動が過去の気温上昇をもたらした? – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute
10) 太陽紫外線に関する基礎情報(環境省)(https://www.env.go.jp/earth/ozone/qa/part3_chapter1_128-132.pdf)